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vol.26 まちにとけこむ まちづくり レポート

2019.6.15 西島陽子

まちにとけこむ まちづくり 参加者19名

みなさんは「まちづくり」をされていますか?多分、ほとんどの人は「していない」っておっしゃると思います。では「まちづくり」って何でしょうか?まちづくりと言ってもさまざまです。「福祉のまちづくり」「景観まちづくり」「道路の整備」「商店街の活性化」「観光客の増加」「空き家対策」など、どれも「まちづくり」です。 でも、普段の生活からはピンときませんね。 今回のMANABIYAは神戸の新開地で観光ガイドをするなど、普段着のまちを紹介しながら「まちづくり」をされている西島陽子さんにお話をお伺いしました。西島さんはご自身の活動を「作らないまちづくり」とおっしゃいます。西島さんの「まちづくり」とはどんなものでしょうか?

1.B面の神戸 ■新開地の「ええとこ」 まず西島さんは新開地の「ええとこ」を紹介してくれました。かつては神戸一の繁華街であった新開地は時代の流れとともにオフィスや映画館が三宮に移り賑わいが無くなってきました。しかし、食文化はしっかり残っていたようで、新開地には醤油を使っていないおでん屋さんやアテが美味しい立ち呑み屋さんなど、味にうるさいおっちゃんたちを唸らせるお店が沢山あります。そして、その食文化が神戸を支えているとか。例えば神戸の各地で名を馳せている洋食屋さんの多くは新開地の名店「グリル一平」で修業を積んだ方々だそうです。 また、震災後に設立された新開地まちづくりNPOが主催するイベントや映画館、大衆演劇場、常設の落語寄席など、いつ行っても楽しめるまちだそうです。 そんなまちの一番の「ええとこ」は地元のおっちゃんやおばちゃん。一見、取っつきにくそうですが話すと実はやさしいと西島さんはおっしゃっていました。

■新開地は三宮のカップリング曲? 神戸はオシャレで華やかなまち、そのイメージを作っているのは三宮を中心とする地域です。そこから少し外れた新開地。三宮は国際的、若者のまち、おしゃれといった要素があります。一方、新開地は歴史、武骨さ、食通のおっちゃん、隠れ家と対照的です。それらを総称して「B面の神戸」と名付けられました。 西島さんが「時々、カップリング曲がええ歌の時あるよね。あんな感じ」と僕に話してくれました。

2.ファンがファンを呼ぶまちづくり 西島さんは新開地のまちづくりをするにあったて「ファン」を大事にされました。「ファン」ってどうやってなっていくのでしょうか?西島さんがおっしゃるには、お店に通ってお店の人と話したり好きなメニューが出来たりして、それを誰かに伝えたくなる。そうやって出来たお店の「ファン」が水平展開して新開地のファンになっていくのだそうです。

■「らしさ」を伝えるミニコミ誌 「ファン」づくりのためのツールとして最初にPR冊子を挙げていただきました。まちの食を紹介するのにグルメガイドがありますが、このガイドブックは違います。伝えたいのはお店が持つ「物語」!だから、「美味しい」といった表現はしていないそうです。名物のお店、家具や器材が特注のお店、継承されるお店、お値打ちなお店、新譜のお店といったカテゴリーに分けられ、誌面いっぱいに魅力を伝えた冊子を作られました。 そして、その配り方もユニークで、お店に冊子を置いておき、お客さんに渡す。その冊子をもっと欲しい人ははがきで請求し、お友達に配っていく。そうやってファンを数珠繋ぎにするツールとしてミニコミ誌を作られたそうです。

■「誰か連れてって!」ザ・シンカイチツアー そして、特に有名なのが「ザ・シンカイチツアー」。西島さんはまちを知れば知るほど新開地の魅力にハマっていったそうです。一見さんや女性には敷居の高いお店が多い新開地をどうやって知ってもらおうか。西島さんが考えたのが、「ガイド付きツアー」でした。 ツアーの目的はファンづくり。つまり、リピートしてもらわないとダメなんです。そのために、西島さんは徹底的に考えてツアーを作ってらっしゃいました。まず、対象を女性限定で一回だけとしました。そして、初心者向けのお店を紹介し、お店に入ったらできるだけ店主とお客さんがコミュニケーションを取ってもらう。ちょっと怖いなと思っていた場所がとんでもなく楽しい。非日常を味わった女性たちはまた新開地に来てくれる。そんな想いを持って企画をされていました。

3.継続は力なり。発信し続けるまちづくり sns、ファンレター、Facebookなどあらゆるメディアを使って西島さんは発信をし続けています。ファンレターはファン登録してくれた人との交流の場であり、特に大事にされていました。西島さんは毎回、手書きで地域の出来事をつづり、チラシを同封して一万二千人に発送されているそうです。

■もはや祭りとなった神戸新開地音楽祭 新開地には今年で19回を迎えた神戸新開地音楽祭というものがあるそうです。この音楽祭はまちのいたるところで音楽が演奏されるイベントで、今年は約200組募集のなかで600組以上の応募があったそうです。中にはプロの方々もいるとかで、西島さんは「イベントではなく、お祭りに成長した」と話されていました。

■生活の場としてのイベント育て 神戸新開地音楽祭とは対照的に最近始まった緩やかな取り組みも紹介していただきました。それが、「土曜マルシェ」です。最近はマンションが建ってきて地域に暮らす住民が増えてきたそうです。でも、なかなか既存の住民たちと触れ合う機会がない。そんな状況を見てマルシェを企画されたそうです。マルシェにはパンやおばんざいと言った食べ物や陶器やアクセサリーなのどの雑貨、そのほかにもいろんな地域のええもんを集めて、毎月第2土曜日に開催されているそうです。2016年から始まったイベントも成果が出始め、出店者さんがアートビレッジセンターでお店を展開したり、独立開業をしたパン屋さんがいたり、地域に出るチャレンジの場となっているそうです。

■地域の声とまちづくりが実った「常設寄席」 また、直接の取り組みではないのですが、新開地のまちづくりが認められた事例も。それが、常設落語寄席の「喜楽館」の開設でした。神戸に第2の繁昌亭を作りたいという桂文枝さんの願いを聞いた新開地の若者が上方落語協会に嘆願したのが発端になり寄席の開設に向けて機運が高まりました。その中で新開地にはまちづくりの風土が根付いておりその取り組みが認められ、「喜楽館」が開設されたそうです。

4.好きなまちのまちづくり 「魅力あるお店・ひと・ものが集まる場所。それらを掘り起こし、知らしていくことで魅力あるまちがつくられていく」 と西島さんはおっしゃいます。 ポジションを確認し、ターゲットを定め、魅力を一言で表す。お店の魅力を発信し、お店の魅力をまちに広げる。その繰り返しがまちづくりであれば、最も大事なのは継続すること。西島さんも地道な作業を続けていく中で、気持ちがすり減るような思いもあったそうです。でも、じわじわとまちが変っていくことを感じられるようになるとおっしゃってくださいました。 西島さんが最後におっしゃった言葉を書き記します。

「一番大事なことは『まちが大好き』なこと。私自身が新開地にほれ込んでいます。まちのお店も人も大事にしたい。このまちがダメになったらダメだと思う。自分自身がそこまでまちを背負う必要はないんだけれど、まちがダメになるのを見たくない。だからこそ、まちづくりが続いているんだと思います。みなさんもいろんなところでまちに関わっていると思います。どうか『自分が好きなまちのまちづくり』をしてください。」

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ふりかえり

西島さんはとても笑顔が素敵なかたでした。そして、まちのコトを紹介しているとき、その笑顔はさらに輝いていたように思えます。西島さんが一番の新開地ファンなんでしょうね。

西島さんが新開地にハマったのは必然だったのかもしれません。大阪のヘリである松原で育った西島さんにはヘリの文化が根付いていると思います。だからこそ、神戸のヘリである新開地は水に合ったんでしょうね。そして、よそ者の女性だからこそ新開地に足りないものもわかっていたんだと思います。だからこそ、その伝えるツールとして、ミニコミ誌やザ・シンカイチツアーを企画されたのだと思います。それぞれの役割を明確化し、どこにどんなタイミングで情報を送るか?誰をどのような状態にしたいのか?とてもデザインされた取り組みだと思いました。とても論理的に作られた取り組みですが、それが嫌味じゃないのは、理屈ではなく「まちを楽しみたい」という想いがあるからだと思います。

そして、人やお店、まちを大事にしている人だと思いました。ファンレターを手書きで書くのは大変だと思います。ツアーを組むにはお客さんだけでなく、お店の人も気持ちよくなければいけません。そんな想いを持っているから、地域の人たちも西島さんを受け入れ、西島さんのまちづくりに賛同しているのだと思います。

「伝える」って難しいですね。「伝える」のは目的ではなく「伝わる」のが目的だと思います。そのための方法が「伝える」。とかく、僕たちは「伝える」ことに固執して「伝わる」ことを疎かにしているように思います。本当は想いが伝わって欲しいのに、その真逆に伝わることもある。相手がどう思っているか?将来どんな未来が欲しいのか?そのためには何をしたらいいのか?西島さんは徹底的に「伝わる」にこだわって「伝えて」らっしゃると思います。

「まちづくりに終わりはない」

僕が西島さんと最初にお話したときにおっしゃった言葉です。新開地のPR担当として14年関わった西島さんだからこそ、継続の重みを知ってらっしゃいます。僕たちは目先の結果に右往左往しがちですが、本当は徐々にしみ込むようにまちは変わっていく。だからこそ、まちづくりには終わりはなく、ずっと続いていくものだと西島さんは話されたのだと思います。

歴史ある新開地のまちに出会った西島さんは新開地の魅力にハマり、まちにとけこみました。そして、まちづくりを通じて西島さんは新開地に新たな歴史を作っています。その歴史に次の人たちが出会い、まちにとけこむ人がいる。そんな何気ない日常の暮らしの中に息づくまちづくり。西島さんのまちにとけこむまちづくりは、まちの楽しさ、継続する大切さを教えてくれました。 みなさんも普段お気に入りのお店があれば誰かに紹介していると思います。それが実は「まちづくり」なのではないでしょうか?

(藤輪 友宏)

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イベント後に姫路の達人!内海昌見さんに「西島さん特別バージョンまち歩き」をしていただきました。「飲み歩きでは?」という声も聞こえてきそうですが・・・(;’∀’) 姫路のまちを缶ビール片手にまちあるき、大通から路地裏まで、いろんなまちをギュッと凝縮して歩きました。そして、最後にお店に入って楽しく飲む。学びと実践を一気に体験した26回目のMANABIYAでした!

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