top of page

過去のイベント

vol.24 楽しいでつながる レポート

2019.2.26 春下充代

楽しいでつながる 参加者14名

1.保育士から「菓茶みきや」オーナーへ  春下さんのご両親は65年続くお肉屋さんの2代目。現在は肉屋「肉旨しみきや」を弟さん、カフェ「菓茶みきや」を春下さんが営んでいます。

 保育士だった春下さんが、家業に関わるきっかけは阪神淡路大震災でした。震災で肉屋があった市場の壁が崩れ落ち、住宅地に変化する中、春下さんのお父さんは、近くの人が買い物に困らないように肉・野菜・乾物などを置いたスーパー「味彩館みきや」として店を続けることを決断。パンやお菓子を作るのが好きだった春下さんは、保育士を辞めてパン作りを学び、お店で販売します。

 その後、元同僚や保護者の方からの声かけがあり、店頭販売に加えてパンの移動販売をスタートします。保育士だった経験から、子どもが喜ぶパンを考え、毎週火曜日にアンパンマンの曲を拡声器で流しながら元職場や住宅街を巡っていたそう。

2.マルシェイベント「ピクニックマーケット」

■はじまりは「人のつながりってええな」

 移動販売を始めて10年ほど経ったころ、春下さんのブログを見た人からイベント出店の誘いがありました。はじめてのイベント出店で不安なときに、周りの出店者の人たちが優しくしてくれたことで「人のつながりってええなー」と思うようになったそう。野外イベントでテントの張り方を教えてくれたり、知り合った人が後日店に来てくれたり、一気につながりが広がりました。「地元(加古川や高砂)でも、人がつながるイベントができるといいな」と思ったのが、ピクニックマーケッをはじめるきっかけだったそうです。

■「人と人、心と心がつながる」イベントに

 ピクニックマーケットの開催場所に考えたのが日岡山公園(加古川市)。場所を貸してもらえないか市役所に相談にいきます。「お金儲けするイベントじゃなくて人のつながりを作るためのイベントにしたい」と担当課の人に話すと、会議にかけてくれることに。そうして2012年から日岡山公園を会場にマルシェイベント「ピクニックマーケット」がスタートします。「人と人、心と心がつながるイベント」というコンセプトは崩さないと最初に決めました。

■個人のつながりから、協働へ

 2012年からはじまったピクニックマーケットは、2016年に1度休止し、翌年に再スタートします。「色々あって2016年は休ませてもらいました。休みがあったから考えられて、2017年からもう一回やろうってなったんです」

 2017年からは「人のつながり=個人のつながり」という考えの枠を広げて、他の団体との「協働」をイベントに加えたそうです。たとえば、災害時に全国の畳店から避難所に新しい畳を無料で届けるプロジェクト「5日で5000枚の約束。」で活動している方が、会場に畳を敷いて休憩してもらえたらと言ってくれたことから、会場に畳の休憩コーナーができました。翌年には、休憩コーナーに本があると親子の会話が楽しめるのではという話から「本と。」という団体さんが本を提供してくれました。

 加えて、出店者の方同士がつながれるように、事前準備を一緒にする機会も設けたそう。「団体同士がつながって新しいコミュニティができたり、コラボしたり。協働することで、より大きなつながりが生まれるのでは、と思って」と春下さん。

3.笑顔になれる魔法のチーズケーキ ■「誕生日はみっちゃんのチーズケーキ食べたい」

 顔が見える農家さんの果物や野菜を使った「笑顔になれる魔法のチーズケーキ」。様々なスイーツをイベントで販売していた春下さんが、チーズケーキをメインで作るようになったきっかけは、友達の娘さんの「誕生日はみっちゃんの抹茶のチーズケーキが食べたい」という言葉だったそう。チーズケーキでもっと笑顔で幸せになってくれる人が増えればという思いから「笑顔になれる魔法のチーズケーキ」という名前をつけました。

■顔が見える農家さんの作物をケーキに

 当初はプレーン・チョコ・抹茶・小豆の4種類だったチーズケーキに、果物や野菜を使うようになったのは、楽笑村(高砂市長尾)のブルーベリーがきっかけでした。知り合いから高砂市でブルーベリーを栽培していると聞き、楽笑村に向かった春下さん。おばあちゃんたちが、1つずつブルーベリーを摘む様子を見せてもらい、帰宅後すぐにブルーベリー入りのチーズケーキを作ったそうです。翌朝おばあちゃんたちの元にもっていくと「自分が作ったブルーベリーがチーズケーキになっている」「孫にも食べさせたい」と喜んでくれたことから、改良を重ねて商品化しました。それから、いちご・みかん・さつまいもなど、作り手の方の顔が見える作物をチーズケーキに入れるようになったそうです。

 今では農家さんに加えて、酒造屋さんや大学とコラボレーションしてスイーツ開発をしています。「地域の人たちとコラボレーションすることで、お互いのことをより多くの人に知ってもらえるし、気づいていなかった良さを見つけられる。みんなにプラスになればいいなと思って取り組んでいます」と話してくれました。

■自分が作ったレモンを使って

 色々な農家さんと出会い、チーズケーキに果物を入れるようになって、自分も作物を作りたいと思った春下さん。2018年4月1日に、150㎡の畑を借りて20本のレモンを植えました。みんなで一緒に楽しめたらと植樹祭を開催。子ども〜大人まで約70人の人が参加しました。実ったレモンは色々な商品に使いたいけれど、生産が追いつかない状態とのこと。将来的には、高砂で作ったレモンを広く知ってもらいたいそうです。

4.「ありがとうの種 農育楽園」 ■「畑に行くと、どしっと地に足がつくよ」

 有機農業をしている春下さんが、畑を始めたきっかけは友達の言葉でした。

 「地に足つけるって、畑に行って、素足になったら、それがいちばん地に足つくってこと。畑に行くとどしっとするよ」そう聞いた夜に、畑をしている知り合いに連絡をしました。知り合いといっしょに、有機農業をしているおじいちゃんの畑を借りてスタートした活動でしたが、最終的に活動を続けるのは春下さん一人に。しかし、畑に行くことは楽しかったと言います。

 畑に行くとおじいちゃん・おばあちゃんたちが迎えてくれる。

 話しているとヒントになるような言葉と出会い、自分の生活にプラスになっていく。

 自分が作った大切な野菜を、大切な人に食べてもらいたいと思う。

 そんな経験を、みんなで分かちあえればという思いがあったそう。加えて、畑を借りているおじいちゃんが有機農業の会の会長で、会のメンバーが子どもと何かしたい・有機農業を知ってほしいと思っていることなどが重なり、農業を始めた翌年に、農業体験学校「ありがとうの種 農育楽園」をスタートしました。

■命の循環と多世代交流の場

 関わる人みんなにプラスになる活動をしたいとスタートした「ありがとうの種 農育楽園」。畑を通じて命の循環を知ってほしいという思いから「命と感謝の循環プロジェクト」という名前をつけています。作物の作り方を教えてくれるのは、有機農業の会(春下さんが畑を借りている)のおじいちゃん・おばあちゃん。参加者は子ども〜大人まで様々。年間を通じて畝作り・種まき・畑の整備などを行い、収穫した作物で作ったスイーツはピクニックマーケットで販売しました。

 収穫の嬉しさも、自然の厳しさも体感する1年。水害でだめになったカボチャが奇跡的に復活し、みんなで喜びを分かちあうこともあったそうです。苦手な野菜も自分で作れば食べられる子どもたち。ピクニックマーケットでは、進んでチラシを作りスイーツを販売する子どもたちの姿があったそうです。

 作物の作り方を教えてくれたおばあちゃんたちは、クッキング教室のときには子どもたちの世話を申し出てくれたり、修了式の日にこっそり豚汁を作ってくれたりしたそう。

 それぞれが感じることを胸に修了を迎えた1期生のみなさん。2019年度にむけて「自分たちが感じたことを、色んな人にも知ってほしい」と運営サポーターを申し出てくれているそうです。

///////////

さいごに春下さん。様々な活動を振り返って 「楽しいということでつながると、いつのまにか人も、心も、つながっていた」 と笑顔で話してくれました。

/////感想/////

 未来をつくる子どもと、子どもの環境をつくる大人に向けて、広める価値のあるアイデアを共有するコミュニティ「TED×Kids@Chiyoda」設立者の青木竜太さんは、コミュニティマネジメントのキーワードを問われて「楽しいが行動原理」と話しています(webマガジンgreenz参照)。

 多くの人が関わる場でメンバーのモチベーションを維持するには、まず笑顔が生まれることが大切、知的好奇心を満たすものがあればさらに良いとのこと。

 春下さんの活動には「楽しい」が溢れているように見えます。一人ひとりが個人の力を発揮しながら、仲間とともに「何か」をつくっていく。コンテンツもプロセスも含めて「楽しい」が原動力だからこそ、多くの人が引き寄せられ、常に活動はアップデートし続けていくのだと思います。

 春下さんのお話の中で何度もでてきた「みんなのプラスになれば」という思い。きっと、その思いが「楽しい」の種となり、たくさんのつながりが芽生え、いろいろな場所で花を咲かせ続けるのでしょう。

(佐伯 桂子)

===参考:青木竜太さんが考える「コミュニティマネージメント10のキーワード」

1. 楽しいが行動原理(わくわく感の演出)

2. 関わり合いのマッチング(自発性を喚起させる)

3. 色を塗れるスペース(一人一人が主役になれるステージを演出)

4. 労働力ではなく仲間(良質な関係性の構築)

5. 傾聴型コミュニケーション(人の心の声を聞く)

6. 生きたデータベース(徹底した情報共有)

7. アンコントロールのデザイン(詳細な計画ではなく、方向性を重視)

8. リーダーシップは地位ではなく、行動(リーダーを任せるタイミング)

9. 委任と質問(質問を投げ続ける勇気)

10. 休憩のデザイン(アクティヴィティ率が異なるコミュニティデザイン)

PDFデータはこちら

新着イベント
bottom of page